顔で笑って心で泣く…笑顔うつ病とは?

笑顔うつ病健康・症状

他の人から見たらいつも通りなのに、実は心の病を抱えている「笑顔うつ病」という症状があります。微笑み(ほほえみ)うつ病もしくは笑顔のうつ病とも呼ばれているこの症状はどんなものなのか、この記事で解説していきます。

笑顔うつ病とは?

日本において、うつ病や躁うつ病などの気分障害で治療中の患者は約120万人と推定されています。また、厚生労働省が発表している患者調査のデータによれば、精神疾患の総患者数は400万人を超えており、日本人の約30人に1人が精神科を受診している計算になります。このデータは治療中もしくは受診人数による推定値なので、病院にかかっていないけれどうつ症状を抱えている人は含まれていません。そのため実際にうつ症状がある人はもっと多いと考えられます。

見えないうつ症状のひとつに「笑顔うつ病」があります。笑顔うつ病は正式な医学用語ではありませんが「smiling depression(微笑みのうつ病)」として海外を中心に研究が進められています。

笑顔うつ病は、他の人から見たら普通に見えるけれど、実はうつ病の症状を抱えている状態を指します。笑顔うつ病は、うつ病を抱えている人が自分の症状を隠すときに発症するといえます。「周りの人からうつ病だと思われたくない」「自分はうつ病ではない」という意識を持ち、周囲に笑顔を見せたり普通に振る舞ったりすることでうつ状態を隠すのです。

通常のうつ病は心や身体に症状が出るため、比較的周りの人が気付きやすかったり、チェックシート等を用いればうつ病であることを自分で気付きやすかったりします。一方で笑顔うつ病は、他人からも自分自身でも自覚しにくい症状となっています。

 

うつ病を隠す理由

うつ病を隠すのは珍しいことではありません。うつ病を隠す理由としては、以下の心理状態が挙げられます。

周りに心配をかけたくない

うつ病には罪悪感を伴う場合があります。自分のことよりも相手のことを心配する気質の人は「周りに心配をかけたくない」と考えます。この傾向は日本人によく当てはまり「人に助けを求める」という行動をためらいます。相手のことを気にかける意識は大切ですが、放っておくと自分のストレスが大きくなりうつ症状が悪化してしまう場合もあります。

うつ病を自覚するのに抵抗感がある

誰でも少なからず「自分はうつ病ではない」と信じたい気持ちを持っています。うつ病は軽視できない気分障害であり治療が必要ですが、時として「心の弱さや性格に問題があるからうつ病にかかる」という誤った認識を持っている人がいます。うつ病は誰にでも起こりうるので早期発見や早期治療をするのがベストですが、「自分が悪いからうつ病になる」というような認識があると「自分はうつ病ではない」と思いたい気持ちが出てしまい、たとえうつ症状があってもそれを覆い隠したくなります。

そのような人たちにとって、自分がうつ病だと気付くよりも「自分は普通である」と考えることの方が大切です。うつ病になることが恥ずかしいと考えたり心が弱いと考えることでうつ症状を自覚することに抵抗を覚え、笑顔うつ病になってしまうリスクが生まれます。

立場への影響を懸念して

うつ病だと診断されると自分の立場が不利になるという考え方があります。クラスで浮いてしまうかもしれない、仕事を辞めなければいけないかもしれない、恋人に振られるかもしれない、うつ病になることによる心配事はたくさんあります。そのようなリスクを冒すくらいだったら、自分の心に蓋をして周囲に笑顔を振る舞っておいた方が安全だと考えるのも理解できます。

しかしこのようなきっかけでも笑顔うつ病は発症します。うつ症状が軽度の場合はそれで凌げるかもしれませんが、我慢して普段どおりの生活を続けるとストレスが大きくなり、そのうち耐えられなくなるかもしれません。心の負担が大きくなって症状が悪化してしまうこともあるので、自分の心と身体の健康について考えるのであればうつ状態を隠すよりも、自分の状態を正しく認識した方が良いでしょう。

SNSの普及と孤独感の増長

SNSの普及によりうつ病を隠したがる人が増えたという見解があります。スマートフォンが一般的になるにしたがって多くの人がライン・インスタグラム・ツイッター・フェイスブックなどのソーシャルアプリを利用するようになりました。家にいながらあらゆる情報を仕入れることができるSNSは、他人を身近に感じることができる便利なツールです。

非常に便利なSNSですが、これは時として孤独感を高める要因になることもあります。SNSにはある種の非現実的が反映されています。例えばインスタグラムやフェイスブックでは、いつもブランド物を身につけており、週末はお洒落なカフェに出向き、恋人との思い出を作り、著名人と食事に行き、ビジネスで成果を上げている人がたくさんいます。これらは充実している人たちが充実しているときの一部を切り出しただけですが、それがあたかもその人のすべてであると錯覚してしまいます。このような内容を目にすると、本来は必要のない他者との比較が発生し、満ち足りない気持ちを感じたり「自分はなんて不幸なんだ」という気持ちを感じたりすることがあります。SNSを通じた人間関係は現実の孤独感にも影響を与えます。

「周りの人は充実しているのに、自分はうつ病だと自覚したくない」もしくは「SNSで充実しているように見せることができているのに、そんな自分がうつ病だとは思いたくない」というある種の競争心が生まれてしまうことがあり、このような背景から現代は笑顔うつ病になるリスクが大きくなっているとも考えられます。

 

笑顔うつ病かどうかを判断する方法

心の健康のためにまずは笑顔うつ病を認識することが重要となります。笑顔うつ病の兆候や症状については次のとおりです。

  • 外では普通に振る舞うことができるけれど、家に帰ったら大きな疲労感があり、食事や着替えもせずに眠ってしまうことがある場合は要注意です。
  • 落ち込んでいるとき、食べ過ぎる人もいれば食欲を失う人もいます。体重の変化が大きい場合は笑顔うつ病の兆候かもしれません。
  • うつ病と睡眠習慣には密接な関係があります。疲労感が大きくて常に寝ていたいと感じたり、逆に夜になっても眠ることができなかったり、睡眠習慣に大きな変化がある場合はうつ病の可能性を考えてみましょう。
  • うつ症状のひとつとして、ふとしたときに罪悪感や絶望感を自覚することがあったり「自分には価値がない」「なぜか分からないけど寂しい」という感覚になったりすることが挙げられます。
  • 仕事に行くまではとても気が重いけれど、職場に着いてからは元気に働くことができる、しかし心の中には孤独感や空虚感があるという場合は笑顔うつ病の症状かもしれません。
  • 家事や育児はできるけれどあまり集中力が保てなかったり、普段よりやる気が出ない日が続く場合、自分の心理状態が健康かどうかを今一度見つめ直してみましょう。
  • 普段の生活は問題ないためうつ病ではないと考えているが、なんとなく心理的なストレスを感じている。オンとオフの心理状態の差が大きいと感じている場合、笑顔うつ病の可能性があります。

笑顔うつ病の人はこれらの兆候や症状があるにも関わらず今まで通りの生活を続けるかもしれませんが、症状を放置しておくのは危険です。「もしかしたら笑顔うつ病かもしれない」「あの人は笑顔うつ病なのでは?」と感じることがあれば、悩み開示の機会を増やしたり医療機関へ行くことがおすすめです。

 

笑顔うつ病になったらどうする?

笑顔うつ病の人は、症状の自覚が遅れてしまうことによってうつ症状が大きくなる可能性があります。うつ病は治療しなければどんどんストレスが大きくなり、精神的な不調が長引いたり希死念慮(死にたいと考えること)につながることもあります。

笑顔うつ病は正しく治療するのが適切なので、まずは自分自身がうつ病であるという事実を受け入れ、周囲の人に相談してみたり、心療内科や精神科などの医療機関に行って相談してみるようにしてみましょう。

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